泥塊指切

泥塊指切


泥団子を持った少年と指パッチンの構えをした少女が圧倒的な威圧感を放つ呪霊と対峙していた。補助監督から聞かされた情報が正しければ今二人の前にいるのは未登録の特級であり、勝てる確率は決して高くはない。それにも関わらず、二人は自分達の勝利を信じて疑わなかった。

「ヨーッホッホッホ!ここァ海賊の船だぜ?テメーらみてェなガキなんてカモにしかならねェよ」

海賊帽をかぶり、眼帯をつけたステレオタイプの海賊のような格好をした骸骨の呪霊は脅すように少女にピストルを、少年にはカットラスの刃先を向ける。

「テメーらの持ってるもん全部出しな。武器も呪力も術式も…」

「それはできかねますわ。なんせ、貴方のような賊に渡すものなど持ち合わせていませんもの」

少女はそう言って指を思い切り鳴らした。すると、ピストルの銃身が綺麗に切断された。

「な!?テメー!野郎ども、やっちまえ!」

呪霊は味方をけしかけようとするが、誰も来なかった。彼が辺りを見回すと、そこには泥の中でゆっくりと息絶えていく他の呪霊達の姿があった。

「野郎ども?誰も居らへんけどなぁ?」

「よ、よくも…よくも俺のクルーを!!!!」

憤慨した呪霊はカットラスを捨てて二人に飛びかかる。そこで、指パッチンの音とボゴッという音がした。

「ガハッ…ァ…」

泥の散弾に体中を貫かれ、首に無数の斬撃を受けた呪霊はその首を地面に落として倒れる。そして、その次の瞬間には大爆発を起こして消滅していた。

「特級といえど、強さはピンキリですわね。こういう弱い呪霊も居れば、特級術師ですら手を焼くものも居る」

「せやな。せやけど、ワイらも結構強くなったんとちゃう?」

「ええ、そうですわね!」

存外に弱かった呪霊に唖然としつつも、二人は自分達の成長を実感していた。それから外で待つ補助監督の下へ戻り、報告を終えるとそのまま車に乗り込んだ。

「……なぁ、お嬢。今日ワイの家に泊まってかへん?」

そう言われた少女はこともなげに首を縦に振る。補助監督も何も言わずに少年の家に行き先を定めて車を出す。二人の夜はこれからだ。

Report Page